2020年9月 第98号 月刊てんとうむしばたけ便り

朝晩すずしく、すごしやすくなりましたね。あの暑かった夏も過ぎてしまえば、ちょっとさびしい気分です。そういえば、今年は海に一度も行っていない…。これだけ海に近いところに住んでいるのに…。稲刈りもすっかり終わり、あぜ道には彼岸花の真っ赤な花がいろどっています。

-落葉と刈草と土の私たち-
 高校2年の娘(小学生の頃は、さつまいもを担当していたのを覚えておられる方も多いと思います。高校生になり、畑のはの字も出ない年頃になりました)が、進路のため、オープンキャンパスに参加するとのことで、朝5時に出発して送りに行きました。助手席で娘は、お気に入りの音楽を聴きながら、ときどき今どきのファッションについて話しかけてきます。よく分からないので、フンフンとうなずくだけしか出来ないですが…。

国道の峠にさしかかったとき、ふと道路脇に目をやると、そこにはたっぷりの落葉がたまっているじゃあないですか!!おもわず、「わあ見てみ、落葉がすごいぞ。」と声をだしてしました。娘はぷっと吹きだして、「相変わらずやんなあ。」と。再び音楽を聴いている。そういえば、まだ保育所だったころ、都会に遊びにいったとき、公園に落葉がびっしりとたまっているのを見て「お父ちゃん、ここで野菜つくったらすごいいいのができるぞ!」と言ってくれたのを思い出しました。あれからずいぶん成長したもんだなあと感じながら。相変わらず父は落葉に夢中なままですが。

 落葉で思い出すというと、私が大学生のとき、研究で森に入って調査したことを思い出します。植生遷移(しょくせいせんい)と土壌性化学の相関関係というテーマでした。裏六甲山の豊かな森の中で落葉とその下の腐葉土、さらに下の土を持ち帰って調べた時の驚きは今でも鮮明です。落葉一枚に、どれほど多くの微生物が住み着いていることか…。はっきりした数字は覚えていませんが、0の数が10個以上並んでいたのかな…。

木につき、生きている葉にはそれほど多く住み着いてはいませんが、木の枝からはらはらと土に落ちると途方もない数の生物がびっしりと集まるようなのです。そして、一年もたつと、微生物たちに食われて腐葉土となり、3年もたつとフカフカの土になってゆきます。河川敷や畑の草も同じ、枯れて倒れて、土に触れた瞬間、落葉と同じ様に途方もない数の生き物たちによって3年ほどでフカフカの土になってゆきます。特にイネ科の草には、生きている時から枯草菌が住み着いており、スタンバイしているそうです。今では、この応用で冬に稲わらを使って納豆つくりをしています。今から思えば、当たり前に接している刈草と落葉と生物ですが、まだ学生だった頃は新鮮なおどろきでした。

時は流れ、私たちの土つくりは山に入り落ち葉を集め、河川敷から刈草を集める仕事です。落葉は野菜が育つ畝に自然状態のように敷き詰めます。(マルチングといいます)刈草もマルチングにしますが、大量に手に入るので、山積にします。すると、自然界と同様に糸状菌が発生し、時にはキノコが生え、やがてミミズやカブトムシの幼虫がムシャムシャ食べて、そのフンがコロコロと。このフンにも微生物がたくさん食いつくようです。いろんな生き物が集まってくる、というより湧いてくる感じ。一年に一度、移動のために切り返し、3年もたつと、フカフカの土に変わってゆくのです。手で握ると、やわらかく、ほんのりあたたかく、土のいい匂いがして、なんだかほっとします。そのままにしておくと、草の種が芽を出し、それはそれは元気な草に育ちます。元の刈草の量からすると、わずか1/10ほどの土にしかならないですが、その力は百倍くらい。土をつくる、土の力を知る、そんな瞬間です。そして、出来上がった土を畑に入れて、野菜が育つ。元気に育つ。私たちの仕事の大半がここにあります。

 今では公共工事の刈草を業者の方が運んでくれることもあって、年間100台以上の刈草と軽トラック20台分くらいの落葉を集めて土つくりをしています。

 数年前にこうして出来上がった土の中に住んでいる微生物の量を調べてもらったことがありました。その数は、1グラムの土になんと100億もの微生物がいたのです。わずか、1グラムの土にこの数の命が住んでいるのですから、畑全体ではいったいどれだけの命が住んでいるのでしょうか…。ちょっと想像できません。いったい0がいくつ付くのか。そして、この途方もなく多い数の命によって野菜が育ちます。その野菜という命を食して、私たちが健康に生きてゆくことが出来る。

 人間はこの途方もない数の命によって生かされている、健康で幸せでいることが出来るということだと思います。

「身土不二」…土に宿る途方もない命あっての私たちです。命に感謝、土に感謝!!
 こんなことを考えつつ運転していたら、気づけば、娘を送る目的地でした。