2021年1月 第100号 月刊てんとうむしばたけ便り

 あけましておめでとうございます。
ここ数年、暖冬で雪のない正月が続いていましたが、久しぶりに白銀の元旦となりました。
寒の入りから再び強い寒気が入るとの予報、しばらく気が緩んでいただけに備えをしっかりとしておかないといけません。今年も愛情たっぷりの野菜と加工品つくりに努めます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

日々、なかなかゆっくりすることの出来ないので正月にはあれしよう、これしようと考えつつ、結局雑用こなすことで時間がなくなってゆきます。ようやくできたのが読書。倉本聡さんの「ニングル」を読みました。今から40~50年ほど前の北海道富良野での話です。  
ニングルとは原生林に暮らす小人たち。寿命が200~300年といわれ、それは樹木と同じ時間軸で生きているのです。ニングルたちとそこに暮らす開拓の人々と倉本聡さんとの様々な出来事。そのことを通じて大規模開発で次々と切り枯れてゆく原生林の行く末に警鐘を鳴らした本です。書かれたのは30年ほど前。環境破壊や地球温暖化のことがようやくとりただされ出した時代に書かれたのですが、その本質は今でもちっとも変っていないことに気付かされます。
(余談ですが、「夏子の酒」というマンガをご存じですか?こちらは今から25年ほど前に書かれた日本酒造りに情熱をかける主人公の話です。その中に、当時の有機農業を巡る課題が書かれています。現在でも、その課題の本質は変わらず、今でも同じ問題を抱えていると思います)
今、コロナの影響で経済が著しく制限されており、人々の暮らしや社会のあり方も大きく変わろうとしています。そんな中、どんな状況下であっても自然の営みは変わることなく続いています。私たちの仕事もそうです。今年は厳しい冬になりましたが、間違えなく春はやって来ます。そして春になれば種まきの季節(とき)。やがて夏が来れば、色とりどりの夏野菜が実り、秋は収穫の喜び、そしてまた冬がやってくる。暮れに、どこかの知事がこんな事言っていました。「コロナに年末も年始もありません」と。その通りで、地球上、全ての(人間を除いて)生物に年末年始はありません。牛や鶏を飼っている農家にも年末年始はないのです。
ニングルが言っていたことにこんな言葉があります。
「人間の時と樹々たちの時、時の流れの速度が違うのだ。
人が一年で成し遂げることを森は十年、二十年かけるのだ。
森の時計はゆっくり刻むのだ。」
このニングルの言葉は40~50年前のもの。森の(自然の)時間の早さはそのまま。人間の時間の早さは更にスピードをあげています。これほどまでに自然と人間の時間軸に差が出来てしまうとどうもわからなくなってしまう人がずいぶん増えてきているようです。人は本来自然によって生かされているんだということを。
 先月号の月刊おたより(第99号)で「人間は食べ物を通じて自然とつながっている」ことを書きました。私たちの野菜つくりも自然の時間軸そのものです。何百年かけて出来上がった森から落ち葉を頂き、何十年かけて土をつくり、何か月かけて野菜を育てる。人がそれを食べる時間はあっという間です。(その前に何時間かけて調理するがありました)その時間を食べるからこそ、健康でそして幸せでいられると思いませんか?

 今年は東北大震災が起きてから十年が経ちます。
時間はつらかったこと、悲しかったことを忘れさせてもくれます。でもあの時、私たちが学んだことは忘れてはならないと思います。「人との絆の大切さ」それと「経済を追いすぎる余り、自然と離れてしまうことの危険」。今は人と人との距離を保つことが求められていますが、「絆」だけは忘れないでいてほしいと思います。そして、こんな時だからこそ自然に寄り添った食べ物や暮らしのこと、社会のことを考えてほしいと願います。

 畑の雪が溶けたら、種まきが始まります。山の雪が溶けたら落葉集めが始まります。畑で聞こえる野菜の声、森に入ったときに聞こえる樹々の声、ひょっとするとそれは丹後に暮らすニングルの声かもしれない…。本を読み終えた時、そう感じました。この倉本聡著「ニングル」をぜひ皆さんにも読んでもらいたいと思い調べたら、残念ながら絶版になっていました。(私が読んだのである方から頂いたものです)

 今春から楽しい企画を考えています。森に入っており場を集めたり、土つくり、種まき、そして収穫。その後に採りたて野菜でランチ…自然とのつながりを実感するツアーです。森の時間、自然の時間の早さで刻を過ごし、一緒にニングルの声を聞きに来ませんか!!(コロナの状況により詳細が決まればお知らせします。)